鉄の守護神:女神「金屋子様」とは
金屋子(かなやご)神は、日本書紀に出てくる「イザナギノミコト」と「イザナミノミコト」の孫で、「金山彦命」と「金山姫命」の子になる。 鉄(金)の生みの親で、鉄(金)の守り神。日本の古式製鉄法である「たたら製鉄」の技術を人々に伝授した神とされているため、 古より製鉄に携わる人々の信仰を集めた 。御神体は、島根県広瀬町西比田にある金屋子神社に祀られおり、その奥には金屋子神飛来の地とされている奥宮がある。
「金屋子神話」と桂の木
金屋子様は、村人が雨乞いをしていたところへ、播磨の国、岩鍋に天降った。そして、民安全、五穀豊穣を人々に教えようと、 あらゆる金器を作り、 磐石で鍋を作られた。
しかし、そこには住む山々がなかっため、白鷺に乗って西方へ赴き、出雲の国の山林に着き「桂の木」に羽を休められた。その後、金屋子様はこの地で自ら村下(むらげ)・「たたら製鉄」の技師長となられる。 神通力の致すところ 、炭と砂鉄を鞴(ふいご)で吹かれ、鉄の涌くこと限りなしとある。
金屋子神社由緒略記
湯川夜叉は、日本で刀匠になる修行時代に「金屋子神話」のことを勉強した。以来、神話に登場する女神と、その女神がこの地にたどり着いた時に身をよせた「桂の木」の神秘的な意味を、大切にし信仰している。
「たたら製鉄」とは
古より営まれてきた日本古来の製鉄方法のことを「たたら製鉄」と呼ぶ。特に奥出雲とその周辺の地域は主な生産地であった。花崗岩等から採取する砂鉄を原料とし、薪炭林(しんたんりん)で育った木を炭にした「たたら炭」という木炭を燃料にしている。窯土で造られた炉の中に繰り返し砂鉄とたたら炭を投入し、鞴(ふいご)という送風装置で風を送りながら炎を焚き和鉄がつくられる。
時代の移り変わりと共に、一旦は途絶えた「たたら製鉄」だが、公益財団法人・日本美術刀剣保存協会が日立金属株式会社の協力を得て、「日刀保たたら」として現在も操業している。 そこでは村下(むらげ)技師長が中心となって、三昼夜、約70時間に及ぶ操業が冬に2,3回行われている。
「たたら製鉄」の賜物:「鉧(けら)の中に現われる玉鋼」
村下は、原材料である「砂鉄」と「たたら炭」、炉を作る「窯土」、そして鞴から送られる「風」、「炎」、これらの巧みに操り、バランスを取りながら、徐々に炉の中に精製された鉄の塊「鉧」を成長させていく。
炉の土と砂鉄が融合し、炉壁を侵食しながら、あたかも生き物の様に育っていく鉧は、最終的に幅1.2m程の塊になる。この鉧の中に「玉鋼」が生成されていく。奥出雲の地域資源である「砂鉄とたたら炭」が、自然界のエレメントである「火」と「風」に出会うことで「玉鋼」は生まれる。
出土した重さ約35トンの巨大な 鉧 何体もの 鉧 が奉納されてある
金屋子神社の境内には、近隣から出土した巨大な鉧が何体も奉納されてあり、この地方で営まれてきた製鉄文化の隆盛を垣間見ることができる。
古の「たたら製鉄」の技法には「銑(ずく)押し」という炭素分の多い銑鉄をつくる方法と、 炭素分の少ない「玉鋼」 が含まれる「 鉧押し」という 方法があった。 銑鉄 や包丁鉄は農具や包丁類に加工され、 鉧の塊からわずかしか採れない最高級の玉鋼が、刀匠によって鍛錬され日本刀になるのである。
神話が物語る、鉄の女神「金屋子様」によって授かったとされる、日本古来の製鉄方法「たたら製鉄」。長い年月の間、奥出雲とその周辺で暮らす人々と自然の力で生み出された「玉鋼」。この神聖な「玉鋼」を刀匠・湯川夜叉が、鍛え、叩き、創造する「クリエーション」をどうそお楽しみください。